これは"創薬アドベントカレンダー2018" 20日目の記事になります。
去年もサイエンス色0の駄文を書いたiwatobipenです。今年もエントリーしたもののネタがないなーと思って色々彷徨った結果、論文を紹介しつつ自分の業務周りにフォーカスしようということにしました。(またサイエンスじゃないのかよ!)
今回紹介するのはメドケム〜合成メドケムっぽいネタ。
まずは、Drug Discovery Todayから
Medicinal chemistry in drug discovery in big pharma: past, present and future
内容はタイトルの通り、GSKにて長年メドケムをやられてきた著者らによる大手製薬企業(海外)のこれまでとこれからですに関する記事です。
論文中のTable1”summary of the topics covered from the past to the present and then the future.”から何個か抜粋してみます。
以下の文章のリストは過去=>現在=>これからの順で書いています。なお、あくまで大きな製薬企業の例なので国内の中規模以下の製薬企業には当てはまらないことも多いと思います。
# 合成
- ハイスキルの人材がマニュアルで実施
- 50%は派遣スタッフや委託
- 90%以上は派遣スタッフや委託
# 合成反応
- 基本的な反応セット
- 同じ反応セット+Pd反応
- 現在の反応セット+CHActivationやBioconversion
# テクノロジー
- ホットプレートで攪拌、Evap
- +マイクロ波、パラレル反応キット
- ?
# Leads
- 様々なソースから
- Role of 5によるDrug like(経口投与を意識した)な構造から
- Role of 5を超えたスペース、様々な投与経路
# Compounds design and SAR
- 論文ベース、暗黙知、経験に基づく試行錯誤
- in silicoツールを活用して効率的に進める。
- より人がやるよりコンピューターが行うようなり、データを活用した洗練された手法になる。
# What medicinal Chemists do
- ラボでの合成が主、創薬化学が少し
- 合成より、創薬化学寄りに。薬探索者のフィールドはラボからオフィスへ
- 創薬探索と真のスペシャリストは基本オフィスへ。
# Communication
- Face to face がメイン
- 電子媒体の利用が増え、会わないでも議論できるように
- SNSのようなツールでリアルタイムにどこでも議論。
。。。論文中はもっと様々なトピックスが予測されています。
私は、大学で勉強してきた有機合成の知識とスキルを生かし、新しい分子を合成することを仕事にと思って今の職につきましたが、昨今の製薬企業において、合成だけでを生業にしていきていくといのは難しくなっているのかもしれません。極論を言えば、お金を出せば、有機合成化学者がいなくても化合物が作れるわけです(うまく行くとはいってないですよ。)。様々な化合物にまつわるデータを解析し、SARを考え次の構造展開をデザインする創薬化学者のタスクに関しても、人の考えているタスクの多くがコンピュータに変わるのではないかと予想されています。
文中では”Compound design and SAR: a transition from art to a process?”というセッションで詳細が述べられております。Drug design/SARは同じデータを見ても人により異なるデザインが出てくる部分であり、想像力が求められる部分もあるかと思います。しかし、コンピューターによって効率的に行われるようになるというのはあながち遠い未来の話ではないのかもしれません。同じくArtとも捉えられてきた有機合成経路探索に関しては、すでにAIが現場に投入されていますね。
https://www.chemistryworld.com/news/merck-kgaa-to-buy-chematica/3007276.article
ちなみに、これは有料のサービスとして他の企業も使えるようになりました。これを対外的にも利用できるようにしたのは、ビジネスとして成り立つクオリティと判断したからなのかな、実力が気になります。
https://www.sigmaaldrich.com/chemistry/chemical-synthesis/synthesis-software.html
色々なサービスや技術進歩により創薬化学者の仕事はだいぶ変わりそうです。その一方で意外と昔から変わっていないのは有機合成です。
今後、勢い衰えずComputer scienceがさらに発展し、デザインがAIによってなされるようになった時SARの案はあるものの、物作りが間に合わないといったことがありえます。
マイクロ波、フロー合成、ナノスケール合成、など新しいテクノロジーは出てきていますが、やっぱり今だにナスフラスコ+スタラーバー、ワークアップは分液ロート振って、エバポしてカラム、(できれば再結晶)、などの作業をやることも多いのではないでしょうか。この辺に対しての取り組みの論文を何個か。
ちょっと古い論文ですが下記のタイトルでLillyの研究者らが、WebベースのUIを備えたリモート合成ラボの報告をしています。この文献によれば、研究員は自分のオフィスから必要な反応条件などを入れるとあとはフルオートでロボットが化合物合成を進めてくれるようです。2013年の論文です。その時もびっくりしましたが今見ても驚きです。ここまでの設備を保有している製薬企業はそんなにないでしょう。Robot化のメリットは効率という観点のみではなく、危険な反応、化学物質の研究者への暴露を避けるといった安全面から見ても有用であると思います。
A remote-controlled adaptive medchem lab: an innovative approach to enable drug discovery in the 21st Century
Globalで一拠点上記のようなラボがあるとして、Logisticsなども含め化合物の合成開始から受領までのターンオーバーがSARサイクルの時間に乗ってくるのかは興味があるところです。
上記のように合成を完全に自動化したという話の次は、デザイン〜合成〜評価全てを閉鎖系でぐるぐるやるという話の紹介です。
Cyclofluidicという企業はUCB/Pfizerの出資により設立された企業で、CycloOpsというテクノロジーでリード最適化を効率的に実行します。最近Publish論文は下記から読めます。
Design, Synthesis, and Testing of Potent, Selective Hepsin Inhibitors via Application of an Automated Closed-Loop Optimization Platform
CycloOpsの肝はフロー合成という技術です。これを利用し化合物を合成し、そのまま評価系に流し込みます。フロー合成とはこれまでの古典的なナスフラスコでのバッチ合成と異なり、細い流路の中に試薬を流し込み反応させるテクノロジーです。バッチ合成の課題点を克服できるポテンシャルを秘めており大変注目されています。同社のテクノロジーは、先のLillyの例と比較すると創薬のPDCAサイクル、DMTAサイクルがぐるぐる回るといった点は大変魅力的です。一方で装置の流路が詰まるとどうにもならないので、使える試薬や反応に一定の制限があります。
2つ事例を見てきましたが、冒頭の#Leadsの部分にあるように近年Beyond Ro5ということで、これまで以上に広い探索スペースから化合物を探索するようになっています。ですので化合物の物性素性もさらに多様性が増しているはずです。多様な化合物合成全てに適用可能な全自動合成マシンの登場はもう少し時間がかかりそうです、(私の予想では)。ただ、比較的汎用的な部分は自動化すぐいけるんじゃないかなと期待しています。ペプチドや核酸はもう自動合成装置がありますしね。
Robotics個人的に熱いところです。詳しい方興味ある方いれば是非いろいろ勉強させていただきたい。
デザイン〜合成の部分にフォーカスしてつらつら書いてみました。
で、まとめると
1、メドケムの業務の多くを引き受けることができるCROがたくさんあるし価格競争力、技術力も高い。
2、CompChemの台頭によりSARの解析、化合物デザインもAIができるようになってきている。合成経路なども提案できる仕組みもできてきた。
3、合成も自動化しているところもある。
業務の外注化に関しては、賛否両論あります。特に最初はいいけど企業の継続性を考えた場合に、技術や知識、人材育成の面ではマイナスになりうるのではというものです。私もここは同意なのですが、これは実は日本のような終身雇用が基本のスタイルだからなのかなと最近考えています。
海外は雇用の流動性が高いのでファーマ=>CRO、CRO=>ファーマといったキャリアパスが多くあり意外と空洞化って起こらないのかなと(私見)。
また、私は自分の今の業務のデザイン、合成がコンピューター、ロボットに変わるのは問題全くないと思っています。まあ、私的に固執する理由はありませんしね。勿論それが新薬創出の加速になるのならですけど。
病で苦しむ患者の皆様に1日も早く新薬を届ける。という目的を達成するために目指すべきはなんなんでしょう。Drug designer・Drug hunterなどと表現されることもあった創薬化学者の行うべき仕事内容は今後どうなるのでしょう。
などと解答のない文章を書いておしまいにしたいと思います。
5年後メドケムの仕事がどうなっているのか、私には正直想像つきません。皆さんどう思われますか。
もうすぐクリスマス!素敵なクリスマスが皆様に来ますように!
One thought on “メドケムxAI 創薬化学者の今後は明るいのか? #souyakuAC2018”